経営

#1「『ピクサーを買った男』ボブ・アイガーに学ぶ、ブランド経営の秘密』

ボブ・アイガーってどんな人?

ボブ・アイガー:ピクサー等の買収により、ディズニーを復活させた敏腕経営者

2000年代中盤から世界のアニメ映画業界のトップに返り咲いたウォルト・ディズニー・カンパニー。

その急激な復活の仕掛け人こそ、今回の「マスター」であるボブ・アイガー氏です。

その最大の功績は、スティーブ・ジョブズ率いるピクサーの買収。

当時絶対に不可能だと思われていたこの合併を成功させたアイガー氏は、その後もマーベル・スタジオやルーカス・フィルムスを次々と買収し、2018年には21世紀フォックスを買収しディズニーの傘下に置きました。

これだけ聞くと、貪欲な権力者のイメージが強まりますが、アイガー氏の顔を見、声を聞いた途端に、そんな印象は弾け飛びます。

さあ、アイガー氏は一体、どんな「成功の鍵」を私たちに授けてくれるのでしょうか。

ボブ・アイガー氏の成功の鍵

①フォーカスを定め、明確さと率直さをもって事に対処する。

ピクサー買収成功の秘密

アイガー氏の最大の業績として知られる、ディズニーによるピクサーの買収。

この成功の要因についてアイガー氏は、次のように分析しています。

「鍵となったのは、率直さ(Candor)だった」

当時アイガー氏は、ディズニー復活の鍵として、「アニメーションの品質を向上させること」を最大の優先事項に掲げていました。

そこで目に留まったのが、当時最先端のCG技術者達と最高のアニメーター達を束ねたピクサー・アニメーション・スタジオ。

しかし、アイガー氏の前任であるマイケル・アイズナー氏の強烈な個性とソリが合わなかったせいで、スティーブ・ジョブズは2004年に「今後ディズニーとは二度と取引しない」と言い切ったばかり。

見通しは極めて暗かったのです。

トップのスティーブ・ジョブズと個人的に親しかったアイガー氏は、ある日ジョブズの元を訪れた際にポロッと提案を口にします。

「クレイジーなアイデアを思いついたんだけど、聞いてもらってもいいかな?」

買収の提案を聞いたジョブズは、真剣な表情でこう答えました。

「君が思っているほどクレイジーじゃないかもしれないよ。ちょっとウチに来て話し合おうか」

その後、様々な反対意見を押し切り、ピクサー側のキーパーソンを説得することにより、見事買収が成功しました。

交渉を始める前までは、独特な企業文化を誇りとするピクサーが、大企業病にかかった「旧世代」の代表のように映るディズニーによる買収を受け入れるかどうかは未知数でした。

また逆に、ディズニー側には、「ジョブズがディズニーを乗っ取ってしまうのではないか」という不安があったそうです。

しかしアイガー氏は、こう考えました。

「もしもジョブズがディズニーを乗っ取ってしまうことになっても、それによってディズニーのアニメーションの品質が向上し、世界に素晴らしい作品を届けられるなら、それでも構わない」

まさに、徹底した無私の精神と優先順位の追求が、アイガー氏の交渉の成功の鍵となったのです。

部下とのコミュニケーション、相手企業との交渉を成功させるための万能の武器とは

このエピソードを通してアイガー氏が伝えようとしている教訓、それはズバリ、「率直さ」(Candor)の大切さです。

アイガー氏は、交渉のあらゆる場面において、自分のニーズを明確に認識し、それを率直に相手に伝えることを意識していました。

すると交渉に応ずる相手側も、「この人は正直な人だ」ということを認識し、率直な姿勢で応じてくれるようになります。(ピクサー買収の際のジョブズがまさにそうです。)

そうなれば、自分のニーズと相手のニーズが明確になり、お互いがウィンーウィンになるような提案を一方が提示できた時点で、即座に交渉は成立します。

交渉は、「どちらかが勝ち、どちらかが負ける」というようなゲームではないのです。

この「率直さ」(Candor)はどこから生まれるのでしょうか。

それは、自分のニーズの「明確さ」(Clarity)です。

企業に必要な戦略の優先順位をはっきりと認識していれば、相手に何を求めるかも明確にわかります。

これは部下に対するコミュニケーションの際にも有効です。

部下は、上司のあなたが認識している「優先順位」をはっきりと理解することによって、正しい時間の使い方ができるようになります。

「明確さ」(Clarity)から来るところの「率直さ」(Candor)こそ、アイガー氏の最大の武器なのです。

「明確さ」を手に入れる秘訣

さて、この「明確さ」を手に入れるにはどうしたら良いのでしょうか?

具体的なアドバイスとしてアイガー氏が提案しているのが、「早起き」のススメです。

アイガー氏は毎朝午前4時15分に起床し、瞑想的な音楽を聴きながら一日の計画を立てるそうです。

「これによって思考が明確に(Clarity of Tought)なるんだ」

ちなみにオフィスへの到着は午前6時半。

帰宅は午後4時半、家に帰ったらパパとしての責務をしっかり果たすそうです。

②リスクを恐れず、積極的な失敗を歓迎する。

アイガー氏のABC時代の失敗談

アイガー氏はウォルト・ディズニー・カンパニーCEO就任以前、ABC(アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー)で働いていました。

当時のテレビ業界に閉塞感を覚えていたアイガー氏は、ある面白い企画を思いつきます。

「そうだ、警察官のミュージカルを作ってみよう」

その突飛なアイデアは、1990年、「CopRock」(コップ・ロック)というテレビドラマとして結晶します。

しかし「仏頂面の警察官が突然歌い出す」という余りにも斬新な発想が視聴者たちに受け入れられず、番組としては失敗に終わってしまいます。

しかし、転んでもただでは起きないのがアイガー氏。

その後、同じ「警察官」というテーマで今度はシリアス路線にシフトしたドラマ「NYPD Blue」を制作し、見事大成功を納めます。

アイガー氏にとって最悪の企業戦略とは

このように、アイガー氏はリスクを取ることを恐れません。

むしろ、リスクを冒さず、現状維持(Status-quo)を臨むことこそが最悪の企業戦略であると断言します。

経営学者P.F.ドラッカーも著書『イノベーションと企業家精神』の中で、「イノベーションをしないことこそが企業にとって最大のリスクである』と言っていますが、アイガー氏もそれに同意見のようです。

しかし、ただ闇雲にリスクを取ることを勧めているわけではないことはもちろんのことです。

アイガー氏は、「一度自宅に帰ってゆっくりと考え(Homework)、思慮深さ(Thoughtfulness)を通してリスクの決断を下す」ことの大切さを説いています。

映画『ブラック・パンサー』、『キャプテン・マーベル』の成功について

今となっては映画史に爪痕を残す名作となった『ブラック・パンサー』と『キャプテン・マーベル』ですが、両作とも公開前は「リスク」の塊でした。

ブラック・パンサーは黒人を主人公にしており、『キャプテン・マーベル』はヒーロー映画にしては珍しく女性主導の物語です。

当時のハリウッドの常識では、どちらも「大したヒットはできない」というのが経験則上の真理でした。

ところが蓋を開けてみたら、『ブラック・パンサー』は興行収入13億ドル、『キャプテン・マーベル』は11億ドルを超える「ビリオン・ヒット」を記録。

アイガー氏が取った「リスク」は、見事に「成功」に変わったのです。

③旺盛な好奇心を持ち、楽観的な心で未来の変化に対応していく。

アイガー氏にとっての究極の「マーケティング」

映画をはじめとするコンテンツ業界においては、当然ながら「視聴者が求めるもの」を提供する、すなわちニーズを掴むことが大切です。

しかし、ニーズがどこにあるのかはそう簡単にはわかりません。

先ほど例に挙げた『ブラック・パンサー』や『キャプテン・マーベル』にしても、「マイノリティ」と呼ばれる黒人や女性たちの間の隠れたニーズを読み取ったことが大ヒットの秘訣となりました。

この「ニーズの発見方法」については、最近のデータ・サイエンスの発達によって、「コンピュータ上のデータを分析することでニーズはわかる」という考えが一般的になりつつあるようです。

しかし、アイガー氏は「いくら情報を集めてもニーズがわかるようになるわけではない」と断言します。

「データよりも、頼るべきは直観(Instinct)だ。直観を鍛える方法はただ一つ。マーケットに身を浸す(Immerse yourself)ことだ」

「マーケットに身を浸す」とは、自分の足を運び、その場の匂いを嗅ぎ、風景を見、全身でその場の雰囲気を感じ取ることだと言います。

アイガー氏は旅行好きで知られ、いつも知らない場所へ行き、新たな人と出会い、新たな体験をすることを求めています。

この旺盛な「好奇心」こそが、アイガー氏の「直観」の源泉なのです。

人がついてくるための必須条件

アイガー氏は、リーダーに欠かせない条件の一つとして、「楽観主義」(Optimism)を挙げています。

「悲観的な人には誰もついてこない。悲観主義はエネルギーを産まない」

一方で、楽観的な人の下で働く人々は、常に刺激を受け、課題を解決するために必要なエネルギーを生み出していくことができると言います。

「困難な状況にあっても、ジョークを言えるだけのユーモアが必要だ」

楽観主義を支える「ユーモア」精神。

創立者ウォルト・ディズニーの快活な精神が、脈々と受け継がれているように感じます。

「ブランドを崇拝するのではなく、尊敬する」

Netflixの登場によってエンターテイメント業界が大きな構造変化を遂げ、ハリウッドも変化の時期に直面しています。

アイガー氏率いるウォルト・ディズニー・カンパニーも例外ではありません。

アイガー氏は、FOXニュースを傘下に置いたことによって手に入った豊富なコンテンツ群と配信ネットワークを活用し、新しい時代に適応する媒体として「Disney+」(ディズニープラス)を立ち上げました。

「今や、我々も時代の変化を受け入れ(Embrave Change)、視聴者にコンテンツを直接届ける形に変化していかなければならない」

不動のブランド力を誇るディズニーさえも、時代の流れに合わせて柔軟に変化していく必要があります。

その際に、「守るべき伝統」と「捨てるべき旧弊」を見分けていく力は、どこから出てくるのでしょうか。

「私は、ディズニーというブランドを、尊敬(Respect)はするが、崇拝(Revere)はしない」

「尊敬」とは、そのブランドの本質を理解し、守ること。

一方で「崇拝」とは、その外形のみを盲目的に固守することに他なりません。

「ブランドを尊敬する。崇拝はしない。」

アイガー氏のこの一言に、ディズニーが誇るブランド力の秘密がにじみ出ています。

まとめ

さて、以上の三点をまとめましょう。

1、フォーカスを定め、明確さと率直さでもってことに対処する。

2、リスクを恐れず、積極的な失敗を歓迎する。

3、旺盛な好奇心を持ち、楽観的な心で未来の変化に対応していく。

ディズニーのブランドと伝統を受け継ぎつつ、ピクサーの特異な企業文化を見事に包摂し、合併に次ぐ合併で「ディズニー・ファミリー」を作り上げてきたボブ・アイガー氏。

その大胆な業績の背後には、ビジネスの現場に「率直さ」「人間としての高潔さ」を求める一人の誠実な企業家の姿がありました。

アイガー氏からの最後の一言

アイガー氏が生徒に贈る最後の一言がこちら。

「次世代のビジネス・リーダー達には、ビジネスに高潔さをもたらし、究極的にはより良い世界の創造に寄与するような事業の達成を切に希望する」

自己変革への第一歩

エクササイズ1:「フォーカス」を明確にしてみる

あなたの人生にとっての「フォーカス」は定まっていますか? 

もしそれができているなら、ここ十年のあなたにとっての「フォーカス」は? 

あるいは、今年一年、今月、あるいは今日1日の「フォーカス」はどうでしょう?

フォーカスを定めることによって、優先順位が決まり、時間の使い方が変わってきます。

エクササイズ2:積極的な失敗をしに行く

失敗を恐れていませんか?

しかし、アイガー氏によれば、失敗を恐れてその場に留まっていることの方が、はるかにリスキーなのです。

自転車は漕ぎ続けていない限り倒れてしまいます。

さあ、やってみたいけれど失敗が怖くてできていないことがあるなら、それをまずやってみることから始めてみましょう。

変化をし、リスクを取ることで、あなたが人生から得られるものの質はどんどん倍加していきます。

エクササイズ3:冒険する

最近あなたは「冒険」しましたか?

何人の新しい人と出会い、いくつの場所を開拓し、どのくらいの数の新しい体験に挑戦しましたか?

そう大それたことでなくても構いません。

例えば、今まで行ったことのないカフェに行ってみる、とか。

今まで歩いたことのないルートで帰ってみる、とか。

些細な「冒険」をすることで、今まで持っていなかった全く新しい視点で物事が見えるようになります。

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3件のコメント

  1. […] これは、第一回で扱ったボブ・アイガー氏の「市場に身を浸す」姿勢とも一致していますね。 […]

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  2. […] これは、第一回で扱ったボブ・アイガー氏の「市場に身を浸す」姿勢とも一致していますね。 […]

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  3. […] 「ディスラプト」なんて耳慣れない言葉かもしれませんが、最近シリコンバレーで旬になっているキーワードの一つです。(そういえば、ディズニーのボブ・アイガー氏もこの言葉を使ってました) […]

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