ファッション 経営

#2「『プラダを着た悪魔』アナ・ウィンターに学ぶ、創造的リーダーシップの秘密」

アナ・ウィンターってどんな人?

アナ・ウィンター:世界で最も影響力のあるファッション誌『VOGUE』のカリスマ編集長。

世界のファッションのトレンドを知りたいと思った時、真っ先に見るべきものがあります。

それが雑誌『VOGUE』です。

『VOGUE』はアメリカ、フランス、イタリアをはじめ世界20ヵ国で発行されており、百年にわたって世界のファッションを牽引し続けてきました。

今回のマスターとなるのは、その『VOGUE』のアメリカ版のトップを務める伝説の編集長、アナ・ウィンターです。

彼女は33才という異例の若さで米版『VOGUE』のクリエイティブ・ディレクターに抜擢されて以来、30年間に渡って世界のファッション業界の牽引役を果たし続けてきました。

映画『プラダを着た悪魔』に登場する「鬼」編集長のモデルになったとも言われているのも、このアナ・ウィンター。

セレブとしてメディアへの露出も多く、アメリカ人女性のロールモデルの一人でもある彼女は、果たして私たちにどんな「成功の鍵」を授けてくれるのでしょうか。

「VOGUE」日本版公式サイトへのリンクはこちら→https://www.vogue.co.jp/

映画『プラダをきた悪魔』をご覧になりたい方はこちら→https://eiga.com/movie/1051/

アナ・ウィンター氏の成功の鍵

①師匠を観察し、仲間を観察し、世界の動きを観察する。

若き日のアナ・ウィンター、成功の秘密

アナは最初からファッション業界に興味を絞っていたわけではありませんでした。

新聞記者で働く父親の元で育ったアナは、15才という若さでジャーナリズム業界に放り込まれ、何もかも知らない状態からキャリアをスタートすることになります。

そんなアナにとっての唯一の学びの方法、それが「周囲の人たちを観察すること」でした。

特に自分の上司にあたる人物を尊敬し、自分に良いアドバイスを与えて背中を押してくれる「メンター」達に恵まれたアナは、やがて周囲から押し上げられ、米版『VOGUE』への夢の大抜擢を受けることになりました。

このような成長の軌跡を辿ったアナは、後に続こうとする若者達にこんなアドバイスをしています。

「今の若い子達は大学を卒業してすぐ自分のビジネスを持ちたがるみたいだけど、それで成功できるのはほんの一握り。私だったら、尊敬できる師匠の元に弟子入りして、そこから独立する道を選ぶわ」

『Masterclass』より

アナが成功例として挙げるのは、バーバリーで活躍した後に独立を果たしたファッションデザイナー、クリストファー・ベイリー。

大学を中退してバーバリーに入ったという異例の経歴を持つ彼も、「卒業してすぐに独立」という道を取らず、先輩デザイナー、トム・フォードの下で長い期間研鑽を積みました。

このように、いきなり自分の足で突っ走ろうとするより前に、自分より経験も知識も豊富な先輩や上司から学べることは極めて大きいのです。

若い頃にそれらの「師匠」から様々な教訓を学び取ったアナは、こうも言っています。

「仕事を選ぶときは、職種(Job)よりも上司(Boss)で選ぶのよ」

『Masterclass』より

良い上司の下で働くことが、最大の成長に繋がることをアナは教えてくれています。

「アナ・ウィンター流」仕事をしながら視野を広げていく秘訣とは

アナが学びの対象としているのは、上司や先輩だけではありません。

自分と一緒に働いてくれる仲間、そして自分のために働いてくれる部下達からも、実に様々な学びを日々吸収しています。

例えば、VOGUEのコンテンツ制作の中核を担うクリエイティブ・ディレクター達やファッション・デザイナー達。

「彼らは職業としてはデザイナーだわ。でも、どんな職業においても役立つ、クリエイティブ・リーダーになるための秘訣を自分なりに掴んでいるのよ」

『Masterclass』より

アナはその事例として、日常的な素材であるナイロンを使って見事なファッションを作り上げたミウッチャ・プラダ、経済的な困難に直面しながら徹底的に顧客のことを考えることによって世界的なブランドとして名を轟かせるようになったマイケル・コースの事例を挙げています。

驚くべきは、これらの偉大な成功者達は皆、アナがともに成長してきた仲間、チームメイトだということです。

アナにとっては、これらのクリエイティブ人材とともに仕事をしている毎日の生活そのものが、最高の学びになっているのです。

そんなアナは、日常における些細なことからも学びを得ることを大切にしています。

その時に鍵になるのは、できるだけ「直接」の体験を重んじる姿勢です。

美術館に行って、「直接」絵画を観る。

シアターに行って、「直接」演劇を鑑賞する。

これは、第一回で扱ったボブ・アイガー氏の「市場に身を浸す」姿勢とも一致していますね。

ヘッズ・アップ。(顔を上げる。)

アナは、TwitterやInstagramをチェックすることはあっても、そこからトレンドをつかもうとすることは決してないのです。

コンピュータやスマートフォンに「ひっつく(Glued)」のは時間の無駄だ、とアナは断言します。

「だって、トレンドを生み出す側なのよ。トレンドを追う側ではないの」(You are leading. You are not following.)

『Masterclass』より

トレンドを生み出し続ける力の源泉はどこにあるのか

アナにとって、ファッションと社会問題は切り離せません。

社会で起きている変化をダイレクトに反映するもの、それがトレンドであり、自己表現としてのファッションなのです。

そんな「トレンド」の最先端を走り続けなければいけないアナは、一体どのようにして世界の変化を掴んでいるのか。

その秘密が垣間見れるのが、VOGUEで行われるミーティングの風景です。

毎年2月と9月に世界各地で行われるファッションショー。

それが終了するやいなや、全世界のランウェーで現れた新たなファッションの観察をもとに、その後数カ月に渡るVOGUEのトレンド発信の方針を決める、重大な会議が開かれます。

ある年の会議では、ランウェー上で観察された素材として「ネオプレン素材」や「絞り染め」が多く用いられていたことから「サーフィン文化」や「サステナビリティ」を喚起し、それらが交差する「カリフォルニア」が次のトレンドの中心地であることを見抜きました。

VOGUEの発信が与える影響力は、単なるファッションに止まりません。

誰を表紙に持ってくるか、どんな服を着せるのかで、政治的な影響力すらも持つのがこの世界的雑誌の恐ろしいところです。

その大きなミッションを背負いながらも、常に「型にはまらない」ことを求めるアナの「嗅覚」は、時代を見抜くための地道な観察に支えられています。

②個性あふれる人々とチームを組み、成果を共有する。

なぜ、チームを作る必要があるのか

『プラダを着た悪魔』で描かれたような抜群のカリスマ性で知られるアナですが、実は何よりも「チームワーク」を大切にしています。

「だってチームがいなければ、私一人では何もできないもの」

『Masterclass』より

豪腕編集長のイメージとは裏腹な弱気の発言に聞こえますが、実はこの認識こそがアナの本当の強さの秘密だと言えます。

雑誌は、編集者が一人いても何もできません。

写真を撮る人、服をデザインする人、コーディネートする人、場所を選ぶ人、アナは彼ら一人一人の個性を見抜き、最大限に発揮させる工夫を凝らしています。

アナは「自分一人で仕事をできる」などとは決して思っていません。

この点については後に続く若い人たちに向けても、教訓として念を押しています。

「デザイナーを目指す人はとてもクリエイティブな人が多いと思うけど、彼らが求めるべきは、良いビジネス・パートナーになってくれる相手じゃないかしら」

『Masterclass』より

例えば、ファッション・デザイナーとして大成功を納めたトム・フォード。

彼は、ビジネスの才能を持つドミニコ・デ・ソーレをパートナーとすることで、自分に欠けている能力を補いました。

クリエイティブ人材と、ビジネス人材。

これらの異なる才能を併せ持つ人間はそう多くは存在しません。

だからこそ、パートナーとなってお互いを支え合うことが必要なのです。

「アナ・ウィンター流」良いチームワークを構築する秘訣とは

良いチームワークは、有効なコミュニケーションによって支えられています。

アナがその際に特に意識していることは、「迅速なフィードバック」。

提案や質問が上がってきたとき、できるだけ速く、かつ率直にフィードバックを与えることで、彼らは自分たちのいる位置を明確に把握でき、「次の質問」「次のステップ」に進むことができます。

逆に、フィードバックが遅かったり、指示が曖昧だったりすると、チームの熱量がは落ちていく一方です。

しかし、激務をこなしながらも全てのチームメイトに対して「迅速で率直なフィードバック」を行うのは、そう簡単なことではありません。

そこでアナが活用しているのが、「テイク・ホーム・バッグ」(お持ち帰りバッグ)。

その日に上がってきた報告や目を通さなければならない書類などを全てまとめて一つのバッグに入れ、家に帰ってから全てにじっくりと目を通し、その日のうちに片付けてしまうのを習慣にしているのです。

前回紹介したボブ・アイガー氏の「宿題」システムにも似ていますね。

アナ・ウィンターの発想力の源とは

アナがもっとも大切にする「チームワーク」は、雑誌『VOGUE』に求められる無限の発想力の源にもなっています。

アナはチームを構成する際には、できるかぎり多様な年齢層、多様な文化背景を持つ人たちを入れるように工夫しています。

多様な人々をチームに引き入れることで、その分「視野」が広がるからです。

そんなアナ・ウィンターが自分のチームに引き入れたいと思う人物の条件、それは「セルフ・スターター」であること。

すなわち、自分の頭で考え、自分の足で動ける人のことです。

アナはミーティングの価値は認めるものの、普通の企業で一般的に見られるような、「ミーティング・ルームに集まって、『その場に腰を落ち着ける』(Settled)」のは大嫌い。

企業家精神に溢れるチームメイトたちに、それぞれの意見を自由に発信させることで、アナの柔軟な発想力が磨かれているのです。

③自分の立脚点を明確にし、大胆に決断する。

アナ・ウィンターが一番尊敬する人物とは

アナは自分が一番尊敬する人物の一人として、「ワシントン・ポスト」紙の牽引役だった女性記者キャサリン・グラハムを挙げています。

キャサリン・グラハムは、2017年公開のスティーブン・スピルバーグ監督による映画『ペンタゴン・ペーパーズ』で、メリル・ストリープ演ずる主役のモデルになった実在の人物です。

アナはグラハム氏から、男性優位のビジネス界で女性がリーダーとして立つことの大変さと、大胆な決断の大切さを学びました。

映画『ペンタゴン・ペーパーズ』の中で描かれているように、グラハム氏はある時、人生の全てを賭けた決断を下しました。それは、一地方紙の紙面上で、ベトナム戦争についての政府の最高機密を暴露するというもの。

男子優位の価値観で縛られた役員会にNOを突きつけ、社長としての自分の判断だけで記事にGOを出したグラハム氏の英断は、全米の女性に勇気を与え、後世に残る偉業となりました。

「『VOGUE』のカリスマ編集長アナ・ウィンターが一番尊敬する人物を描いた映画「ペンタゴン・ペーパーズ」に学ぶ、女性のリーダーシップ」の記事は、現在作成中です。今しばらくお待ちください。)

大胆な決断を下す勇気はどこから出てくるのか

アナは、他人からの意見に対して常にオープンです。

人からの批判にも、きちんと耳を傾けます。

しかし、時代を牽引する雑誌『VOGUE』の編集長として、時に世界の予想を裏切るような大胆な発信をしなければならない時があります。

例えば、ある日アナが飛行機に乗っていた時のこと。

隣の席に座ったビジネスマンが、VOGUEの大ファンだと言って話しかけてきました。

「VOGUEのいいところは、エレガントでスタイリッシュなところですよね。例えばほら、マドンナみたいな奴が表紙を飾る日は永遠に来ないでしょう?」

その数年後、アナはマドンナを表紙に載せる決断を下します。

「エレガントでスタイリッシュ」というVOGUEのブランドイメージと、一見相反するようなマドンナの世俗的なイメージ。

時代の変化を先読みし、次の流れを見抜いたアナは、批判を覚悟してこの賭けに出、見事成功を納めました。

アナは多様性を愛し、色々な意見に耳を傾けますが、最後には自分で決断を下します。

その時に必要なのは、「自分が何を体現した存在なのか(What you stand for)」を理解していること。

VOGUEという雑誌が、どんな価値を体現した雑誌であり、その編集長である自分は一体何を旗印として掲げる存在なのか。

その絶対的な基準を元に、アナの大胆な決断が下されるのです。

「アナ・ウィンター流」ファッションデザイナーとして成功する秘訣

「自分とは何者であるのか」を明確に把握し、それを正直に見せること。

これはファッション・デザイナーとしての成功にも不可欠だ、とアナは語ります。

例えば、オーディションの時。

アメリカには、CFDA/VOGUEファッションファンドと名付けられた基金が存在し、毎年新たな才能を発掘するためのオーディションを行っています。

2018年のオーディションでトップに次ぐ賞を見事受賞したエミリー・ボードさん。

アナが彼女を選んだ理由は、ズバリ「ポートフォリオとアトリエの間に流れる『個性の一貫性』」だったと言います。

「デザイナー達を評価する時の基準は、彼らの外見や表面ではなく、彼らが実際に何を考え、どんな心持ちでいるのかということ。自分がどんな人間で、人生に何を求めているかを明確に把握しているデザイナーかどうかを見るのよ」

『Masterclass』より

「VOGUEガール」と言われるモデルたちも、単なる外見の美しさだけではなく、それぞれが固有の現代のカルチャーを反映している存在である点で、同じ資質が求められる、とアナは言います。

シンプルで奥深いこの行為、「自分を知る」ことこそが、実は最大の成功の鍵なのです。

まとめ

さて、以上の三点をまとめましょう。

1、師匠を観察し、仲間を観察し、世界の動きを観察する。

2、個性あふれる人々とチームを組み、成果を共有する。

3、自分の立脚点を明確にし、大胆に決断する。

「ジャーナリズム」と「ファッション」の二つの視点を持ち、30年もの長きにわたって常に世界のトレンドの先を生き続けたアナ・ウィンター氏。

「プラダを着た悪魔」の素顔は、どんな人からも学びを得ようとする謙虚さと、自分が何者であるかを恐れない強さを兼ね備えた美しい一人の女性でした。

アナ・ウィンター氏からの最後の一言

アナ・ウィンター氏が生徒に贈る最後の一言がこちら。

自分の決断に責任を持ちなさい。(Own your decision.)

謝ったりせずに、自分が何者であるかを受け入れなさい。(Own who you are without apology.)

『Masterclass』より

自己変革への第一歩

エクササイズ1:身近な人々の中から尊敬できる人を探し、その人から学ぶ。

あなたが今まで当然のように接してきた人たちの中にも、正しい目を向ければ、驚くべき学びが眠っているかもしれません。

たとえ、全ての面において尊敬できるわけではなくとも、例えば「部屋が綺麗」とか、「姿勢がいい」とか、何か一つでも学べる部分はあるはず。

それを見つけ、真似してみましょう。

『三国志』を書いた人気作家、吉川英治も言っているように、「我以外皆我が師」の心境になれば、どんな人からも学びは得られるのです。

エクササイズ2:スマホを見る時間を減らし、美術館へ行く。

ネットでトレンドを漁るのをやめ、「直接」物事に触れに行きましょう。

インスタグラムをはじめとする様々なSNSで発信される「トレンド」を作っているボスがそう言うのだから、間違いありません。

向かう先は美術館でなくとも構いません。

本屋でもいいし、劇場でもいいし、それこそファッション・ショーでも。

コロナの時代には難しいかもしれませんが、出来るだけ「直接」美しいものに触れることを通して、私たちの感性は磨かれていく、とアナは教えてくれました。

エクササイズ3:「自分とは何か」について、ジョハリの窓で考えてみる。

アナによれば、「自分とは何か」を知ることこそが、クリエイティブな分野における成功の出発点です。

すぐには答えが出ずとも、「ジョハリの窓」を書くことを通して、少しでも見えてくるかもしれません。

「ジョハリの窓」とは、以下の四つの象限に分けて自分という存在を理解しようとしていくアプローチです。

①自分にも他人にも見えている領域

②自分は知っているが、他人には見えていない領域

③他人にはそう思われているが、自分としては認識していない領域

④他人も自分も知らない領域

……どうですか? 「自分」が見えてきましたか?

すぐに結果が出なくても、大丈夫です、ご安心ください。

私はまだ見えていません。

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1件のコメント

  1. […] 1については、アナ・ウィンター氏も言っているように、「自分はどんな人間であるか」を掴んでいる人間に魅力を感じるからだと言います、 […]

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