映画 脚本

#4「映画界の巨匠ロン・ハワードに学ぶ、創造的チームワークの秘密」

ロン・ハワードってどんな人?

ロン・ハワード:『ビューティフル・マインド』『シンデレラ・マン』『アポロ13』等の数々の名作を生み出した、アカデミー賞受賞映画監督

役者、プロデューサー、映画監督——。

オールマイティーな経歴を持つ巨匠ロン・ハワード氏は、俳優を職業とする両親の下で育ち、10代で役者デビューを果たして以来、『ビューティフル・マインド』『シンデレラ・マン』『アポロ13』といった名作を次々と生み出してきました。

四十年を超える監督としてのキャリアの中で、ハワード氏が掴んできた「成功の鍵」。

撮影スタジオにおけるライブ・セッションを含めた約8時間に渡る特別授業を通して巨匠ロン・ハワード氏が私たち後輩に伝えようとしたメッセージを、共有させていただきます。

ロン・ハワード氏の「成功の鍵」

①ストーリーに惚れ込むところから全てが始まる

ロン・ハワードが語る、「良い物語に共通する特徴」とは

監督の仕事は、手元に送られてくる膨大な量の脚本の中から、心に響く一つの作品を見つけ出すことから始まります。

その際にロンが最も大切にする要素、それは「新鮮さ」(Freshness)。

そしてその「新鮮さ」は、「古いもの」と「新しいもの」の融合によって生み出される、とロンは語ります。

「ストーリーテリングは、ほとんどいつだって新しいものと古いものの結合だ。普遍的なものに新しい要素を加えることで、現代の人たちの心に届く作品が作れるんだ」

伝統的に語り継がれているテーマを、新鮮な切り口で提示する——。

例えば、とロンは続けます。

ロン自身もジョージ・ルーカスと一緒に制作に携わった映画「スター・ウォーズ」は、ジョゼフ・キャンベル教授が「千の顔を持つ英雄」で描いたような古典的な神話を、「宇宙」という新しい切り口で提示したものです。

また、デイミアン・チャゼル監督によるヒット作「ラ・ラ・ランド」は古典的なミュージカル映画の構造を使いながら、人生における成功と挫折という奥行きを与えることで新鮮なメッセージを伝えました。

ロンが自らメガホンを握った映画「スプラッシュ」は、30年代に流行った古典的なロマコメを、「人魚」というファンタジーの要素を盛り込むことで現代映画にしたもの。

ロンが幼い頃父親に薦められて以来、愛読しているシナリオ本の名著にも、同じことが書かれています。

それは、ラヨシュ・エグリによる「The Art of Dramatic Writing」。

残念ながら未邦訳なのですが、この本の述べる要旨、それは「全ての物語は、突き詰めていくと数語で表せる単純な信念を表している」というものです。

その単純な信念とは、「偉大な愛は死をも乗り越える(Great love defys even death.)」、「嫉妬は嫉妬する者自身と愛する者もろとも破滅させる(Jealousy destroys itself and the object of its love.)」などといった、古来から人々によって語り継がれてきた普遍的な真実のこと。

物語作家の力量は、それらの普遍的な真理をいかに「新鮮に」提示し直せるかにかかっているのです。

(ちなみに、ロンは驚くほどたくさんのシナリオ本を読破しています。「映画界の巨匠ロン・ハワードに学ぶ、最高の脚本の作り方」の記事は現在作成中。しばらくお待ちください)

映画監督の仕事は「ストーリーの管理人」

「私が長年の経験を通して学んだことは、どんなプロジェクトもどこかの段階で自分の『心を打ち砕く』(break your heart)瞬間がくるだろうということだ」

映画製作、特にロンのように2時間超の長編映画の製作は、長く骨の折れるプロセスです。

「プリプロ」「撮影」「ポスプロ」という三つのフェーズを通して予算とスケジュールに追わ続ける中で、スタッフたちから上がってくる演技、カメラ、照明、美術などに関わる多種多様なアイデアを一つの方向にまとめていかなければいけません。

もちろん、監督とプロデューサー、脚本家と美術監督、様々なレベルにおいて意見の衝突も起きてきます。

「企画した映画の10個に一つが、この『開発地獄(The Development Hell)』を抜け出すことができずにボツになるんだ」

そんな苦しい制作過程の中で、監督は一体何を基準に判断を下し、どこからチームをまとめ上げる求心力を引き出してくるのでしょうか。

その答えは、「ストーリー」です。

「ストーリー」を守り抜くことが、監督の最大の仕事である、とロンは断言します。

「監督業をやっていると、部下の意見を素直に聞き入れたり、たまには妥協しなきゃいけないことだってある。でも、この『ストーリー』だけは絶対に譲ってはいけない。監督は『映画のCEO』なんだから」

映画は『パワフルな瞬間』の連鎖でできている

「ストーリーを愛することができたら、次の段階は『なぜそのストーリーに感動するのか』を考えること。これが難しいんだ」

自分の中の直観を、ストーリーテリングの「技術」でバックアップしていくこと。

どうしてそれにワクワクするのか、個人的な感情を超えて普遍的な感動を呼び起こす要素はどこにあるのかを考えることによって、ロンは選び出した脚本の奥にある本質を掴み、映像化に向けてブラッシュアップしていきます。

「大抵の映画は、3個から7個の『偉大なシーン』で成り立っている。この瞬間をフレームに収めるために、残りの全てがあるんだ」

ロンにとって、映画の本質は「シーン」にあります。

映画館の中で、思わず心を動かされ泣いてしまったシーン、びっくりしてヒャっと声を上げてしまったシーン。

映画を観終わった後何日も経ってから、「あの映画どうだった?」と言われて心に思い浮かぶのは、そのような幾つかの「シーン」のはずです。

その「パワフルな瞬間」を生み出すために、ストーリーのすべての要素が奉仕しているのです。

②ビジョンを形にするための、旺盛で徹底した研究心

巨匠ロン・ハワードはこうやって技術を「盗む」

映画監督はあらゆる局面において「アイデアマン」でなければ成り立ちません。

巨匠ロン・ハワードは日常生活のどんな場面でも、アイデアの種や技術の向上のためのきっかけを探しています。

ある日ロンが飛行機に乗った際、映画を見ようと思ったのにヘッドホンが壊れているという事態が起きました。

キャビンアテンダントに不平を垂らす代わりに、ロンは「それならいっそ無音で映画を観てみよう」と思い立ち、スピルバーグ監督による大ヒット作『インディ・ジョーンズ 失われたアーク』を音を消した状態で鑑賞することにしました。すると……

「あれには驚いたね。質のいいアクション映画を作るための編集のコツがあまりにもクリアーに浮かび上がってきたんだ」

音を消すことで映像の中身に集中できるようになり、テレビ出身の映画監督スピルバーグが、出来るだけ効率よく素晴らしいアクションシーンを作るために凝らした工夫の一つ一つに目が行くようになったのです。

(ちなみに、ロンは優れたアクションシーンについて二つの分野に分けて分析しています。「映画界の巨匠ロン・ハワードが教える、優れたアクションシーンを撮るための二つのアプローチ」の記事は現在執筆中です。今しばらくお待ちください。)

そんなロンであっても、もちろん、アイデアの不足に苦しむ瞬間があります。

ロンはある日、F-1レーサーの確執を描いた映画『RUSH』の制作に取り掛かっている際に、「大事なシーンで映すことになっている、F-1カーのエンジンをどうしたらカッコよく描けるか」で困ってしまいました。

そこで思い出したのが、知り合いのデヴィット・フィンチャー監督から聞いた一風変わったアドバイス。

「映像のアイデアに困ったら、YouTubeを見るといい」

YouTubeに上がったアマチュアによる動画は、驚くほど斬新なアイデアの宝庫だ、と言うのです。

そこで検索ボックスに「F-1エンジン」と入力すると、エンジンのシリンダーのクローズアップショットで、ピストンが蒸気を噴出しながらゆっくりと上下するドラマチックな動画素材がすぐに見つかりました。

「これだ!」

自分が思い浮かべていたイメージにぴったりだと膝を打ったロンは、そのアイデアを即採用。

このカットは、映画『RUSH』の中で、クリス・ヘムズワース扮する主人公のジェームズ・ハントがレースに向けて覚醒するキーポイントとなるシーンで確認することができます。

緻密なリサーチがクリエイティビティを生み出す

一つ一つのカットよりも大きな次元、すなわち映画のシナリオ段階においても、悩みは尽きません。

映画『アポロ13』の制作に当たって、事前知識をあまり持たずに臨んだロンは、脚本を練り上げていく際のアイデアの枯渇に苦しめられます。

その時に役に立ったのが、「徹底的なリサーチ」でした。

映画のテクニカル・アドバイザーを務める元宇宙飛行士のデービッド・スコットの話を聞くうちに、監督のロンと主役のトム・ハンクスは、具体的な事実のディテールの一つ一つを脚本上の重要なアイデアに変換できることに気づいたのです。

この経験を経てロンは、その後の映画製作においても、一見事務的でつまらない作業に見える「事実考証」のプロセスをクリエイティビティの源泉として利用するようになります。

プロジェクトが動き出し、各部局がリサーチを始めると、ロンはその過程で収集した写真をキッチンやトイレに近い部屋にまとめて貼るように指示します。

その部屋を通りかかるたびに、スタッフの全員が映画の完成イメージを共有し、アイデアを出し合えるようにしているのです。

役者、カメラマン、美術監督…様々な専門家たちを束ねる際に必要になるもの

ロンの旺盛な研究心は、良好なチームワークの構築の際にも一役買います。

映画監督は、役者やカメラマン、美術監督など、それぞれが自分の専門分野に関して自信を持っているスタッフたちに指示を与える立場に置かれます。

その際、全ての分野に関してある程度の知識を持っていることが大きな意味を持ってくるのです。

まず、演技の分野。

役者として活躍していた経験も持つロンは、カメラの内側にいることが役者にどれほどの精神的負担を与えるかを知り尽くしています。

またロンは、役者によって即興型や脚本忠実型など様々なタイプが存在することを理解した上で、複数のテイクを撮る中でそれぞれがベストを発揮できるタイミングを見計らいます。

そうした細かな配慮ができるのも、役者としての経験があってこそです。

また、カメラマンにどのように意思伝達を行うかという問題も、監督にとって難しい要素の一つです。

特殊な専門用語を飛び交わせ、巨大な機材を駆使するカメラ隊に対しては、怖じけづいてしまう人も少なくありません。

しかし、「ビビってはいけない(Don’t be intimidated)」とロンは言います。

「一度しっかり勉強して、専門用語すら理解してしまえば、彼らを信頼できるようになる」

ロンは専門外の人にも、カメラの授業を一度受講してみることを薦めます。

自分の専門の外にある知識を仕入れることによって、その分野の専門家との間の壁が薄まり、フラットな立場で自由な意見をキャッチボールできるようになるというアドバイスは、映画の世界を超えて通用する真理だと言えるでしょう。

(カメラの専門知識が全くない方は、こういうまとめサイトを一度のぞいてみるだけでも大きな違いが生まれるかもしれません。→https://liginc.co.jp/web/camera/89634

③多くの人を巻き込み、意見を出し合いながら、『パワフルな瞬間』に向かってビジョンを統一していく。

巨匠ロン・ハワードはこうやって人を「巻き込む」

どれだけ良い構想を持っていても、それを一人で形にすることはできません。

ロンは構想段階から、全力で人を巻き込んでいきます。

脚本をブラッシュアップしていく過程を、ロンは次のように描写します。

「大きな部屋の真ん中のテーブルに脚本を置く。その周りをぐるぐる回りながら、考えを練っていく。行き詰まったら友達を呼び、その回転軌道に巻き込んで一緒に部屋を歩く。だんだん部屋を回る人間の数が増えていく。そうやってみんなでぐるぐる部屋を回転するうちに、答えが見えてくるんだ」

脚本が完成し、それをもとに撮影を行う段になっても、ロンは問題にぶつかるたびに脚本に立ち返り、さらに多くの人を「巻き込む」ことによって改良していきます。

「どこかで問題があった場合、役者たちと脚本家を集めて、読み合わせを行う。徹底的に質問を出し合い、改良案を提示し合うんだ」

この「巻き込み」は、撮影が終わってからもまだ続きます。

粗編集版ができ次第、ロンは暫定版の映像をスタッフ以外の人間に見せ、フラットな立場からの感想を聞き出す努力を欠かしません。

このような努力の姿から、出来るだけ多くの人間の視点を入れることで映画を改良し続けようとする姿勢の大切さが浮かび上がってきます。

黒澤明監督からロン・ハワードに受け継がれた、問題解決の黄金の秘策

ジョージ・ルーカスをはじめとするアメリカの映画監督に多大な影響を与えた日本人監督・黒澤明。

「世界の黒澤」から授けられた「ある教訓」が、自分の監督人生において大きな役割を果たしてきた、とロンは語ります。

その教訓とは、「三人の人間が集まることで、問題は必ず解決する」というもの。

ロンは映画『ビューティフル・マインド』の制作において直面した困難を乗り越えた経験を語ります。

『ビューティフル・マインド』の脚本を初めて読んだ時、ロンはその最後の「どんでん返し」にどうしても納得がいきませんでした。

(仕掛けとしては確かに面白いが、いまいち「フェア」じゃない。途中まで観客に嘘を付いているようで、どこか気持ちが悪い)

ロンはこの正直な感想を、脚本の作者であるアキヴァ・ゴールズマンに伝え、主演のラッセル・クロウも含めた「三人」で会議を行います。

そこでアキヴァの精神分裂症に対する専門知識と、クロウによる演技する側からの提案を聞いたロンは、「二人のアイデアをうまく組み合わせれば、観客に嘘をつくことなく、フェアな形で最後のどんでん返しができる」ことに気づきます。

まさに、「三人寄れば文殊の知恵」で、困難を克服したのです。

監督は『パワフルな瞬間』を求めている

監督は常に巨大なプレッシャーに晒されています。

どのアングルから、どのレンズを使って、どんな動き方をして撮るべきか、悩み始めたらキリがありません。

そんな時にロンが思い出すのが、偉大な先達が残した次のようなアドバイスです。

ウィリアム・ワイラー「映画は90%が脚本と演技だ」

ジョージ・ルーカスの言葉「シナリオとキャスティングがしっかりしていれば、シーンがダメになることはまずあり得ない」

つまり、撮影が多少うまくいかなくても、何とかなるということです。

でも、本当にそうだとするならば、撮影現場における監督の役割は一体どこにあるのでしょうか。

「監督は役者をリードしなくていい。ただ『そこにいて』(Be there)、彼らを『見守る』(protect them)んだ」

ロンにとって、キャスティングは化学反応にも似たプロセスだと言います。

誰と誰をどんな形で組み合わせたら、どんな結果が出るのか。実際にやってみない限りわからないような、全てが魔法のようなプロセスです。

その偉大な「化学実験」が行われる現場に居合わせ、何が生まれてくるかを見守ること。

そして、その「瞬間」をフレームに収めること。

それこそが、監督の仕事なのです。

「映画監督として長年やっていると、世界が違ったように見えてくるんだ。例えば通りを散歩していると、遠くの家の窓でペチャクチャ喋っている子供達の姿が目に入る。その姿に感動しちゃってね。早速隣のカメラマンに向かって、『なかなかいいショットだね。あの遠さだと、例えば250ミリレンズでディテールをしっかり映すようにしたらいいね』などと指示したくなる。……とにかく、楽しいんだ」

まとめ

さて、以上の三点をまとめましょう。

1、ストーリーに惚れ込むところから全てが始まる

2、ビジョンを形にするための、旺盛で徹底的な研究心

3、多くの人を巻き込み、意見を出し合いながら、『パワフルな瞬間』に向かってビジョンを統一していく。

ロン・ハワードからの最後の一言

心から愛することのできるストーリーを見つけて、それを伝えてごらん。(Find the story you love, and tell it.)

楽しんで!(Have fun!)

自己変革への第一歩

自分のやっている仕事を「ストーリー」として表現して

「ストーリー」は、映画の世界だけでなく、あらゆるビジネスにおいて存在します。

その会社、あるいは事業は、どんな「ストーリー」を顧客に与えていますか?

あなたはその「ストーリー」に惚れ込むことができていますか?

休日の時間を利用して、自分と関係のない業種の専門知識を仕入れてみる

趣味レベルでも構いません、自分が今まで知らない領域に触手を伸ばしてみましょう。

書店に行って、バイクについての専門的な内容を扱った雑誌に手を出してみる、あるいは、知らない分野に関するまとめサイトを覗いてみる、とか。

ほんの概要を理解するだけでも、大きく視野を広がる経験を味わうことができます。

困ったことがあったら、関心領域の異なる友人二人を集めて「文殊の知恵会議」を開く

困ったことがあったら、仲のいい友人一人に電話をかけるのもいいかもしれませんが、可能ならばもう一人加えて「三人」のグループチャットにしてみましょう。

二人分の異質な視点が相互作用を行うことによって、思いもよらぬ化学反応が生まれること、請負です。

なんて言ったって、私たちが暮らすこの日本こそ、「三人寄れば文殊の知恵」という言葉の発祥地なのですから。

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