ゲーム

#6「シミュレーションゲームの先駆者ウィル・ライトに学ぶ、創造力の秘密」

ウィル・ライトってどんな人?

ウィル・ライトによる講義が受けられる「Masterclass」

ウィル・ライト:「ザ・シムズ」「シムシティ」などのシミュレーションゲームの名作を数多く生み出した伝説のゲームクリエイター。

コロナによる巣篭もり需要で日本中の注目を集めたゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」。

その中で採用された、「プレイヤーが村長になって村を経営していく」というゲームスタイルの原型は、1989年にアメリカで発売されて以来、国境を超えてファンを獲得し続けてきたシミュレーションゲーム「シムシティ」にありました。

その生みの親こそが、今回のマスターとなる伝説のゲームクリエイター、ウィル・ライト氏です。

「シムシティ」の他にも、シリーズ累計2000万本突破でギネス記録を生んだ「ザ・シムズ」や「シムアース」「スポア」など、プレイヤーのクリエイティビティを引き出す不思議な力を持ったゲームソフトを次々と生み出してきました。

新しいジャンルを切り開くゲームクリエイターは、一体どんな考えと行動でゲーム開発に取り組んでいるのでしょうか。

ウィル・ライト氏の「成功の鍵」を探っていきます。

①自分の想像力の「パレット」を見つける

「シミュレーションゲーム」という新しい分野を切り開いたパイオニアであるライト氏。

そのクリエイティビティの根底には、強い「科学的好奇心」がありました。

「ザ・シムズ」「シムシティ」「シムアース」「シムアント」、これらの四つのシミュレーションゲームは全て、異なる分野の科学研究に刺激されて着想を得たものだと言います。

「普通の人が読んでもつまらないような難解な科学論文が、私にとってはゾクゾクするほど面白いんだ。それを、いかにゲームの形でわかりやすく伝えるかが、私の仕事だね」

まず、人間の生態観察を行うシミュレーションゲーム「ザ・シムズ」は心理学者マズローの欲求五段階説に基づいて設計されました。

次に、日本でも平成初期に一斉を風靡した都市開発ゲーム「シムシティ」は、都市計画家クリストファー・アレキサンダーの提示した斬新な都市設計思想に感動したところから始まったと言います。

また、惑星を管理するという壮大な世界観のもとで展開する「シムアース」は、科学者ジェームズ・ラブロック氏の提唱による「地球は一つの巨大な生命体である」とする「ガイア理論」に基づいて設計されました。

知名度は高くありませんが一部のコアなファンに絶大な人気を誇る蟻の巣観察ゲーム「シムアント」は「21世紀のダーウィン」で知られる著名な生物学者エドワード・O・ウィルソンによる蟻の生態の研究に刺激を受けて作ったそうです。

このように、あらゆるゲームの着想を、難解な科学論文から得ているというライト氏にとっては、ゲーム制作は自らの旺盛な科学的好奇心を満たす行為の一つに過ぎないのかもしれません。

「自分の想像力のパレットを、広げていくことが大事です」

②「視覚化」によって物事の本質を洞察する

ライト氏は学生時代、数学が大嫌いだったと言います。

ところがある日、ちょっとした工夫によって、数学を解くのが楽しくてたまらなくなります。

その工夫とは、「全てを幾何に置き換えて考える」というもの。

嫌いだった数学が好きになったのは全てを「視覚化」するようになってから、ライト氏の数学の成績はぐんぐん伸びていったのです。

その経験以来、ライト氏はゲーム制作をするときはいつでも、全ての工程において『視覚化』することで直感的に理解できるようにしています。

例えば、ゲームをデザインするときは、まず「判断」の樹形図を書いていくところからスタートすると言います。

樹形図を書き、あらゆる可能性をもれなく検討することで、思いもよらなかったデザインが可能になると同時に、チームのメンバーとの意思疎通もやりやすくなるのです。

この「視覚化」による理解促進作用は、ゲームを実際にプログラムしていく際にも役立ちます。

「私はアイデアが思いついたら、出来るだけ早い段階で簡単なプロトタイプを作るようにしている」

プロトタイプを作って実際に動かしてみることを通じて、頭の中で思い描いていたものとは全く予想外な部分での欠陥に気づいたり、逆に新しいアイデアを閃いたり、ということが頻繁に起こります。

プロトタイプを作る行為も、問題の「視覚化」の一つのあり方なのです。

③プレイヤーの立場に立ち続ける

ゲームにおいて、「学問的価値」と「商業的成功」を両立するのは簡単ではありません。

特に、ライト氏のような実験的なシミュレーションゲームは、一部のコアなファンの支持を得ることはできても、それ以上には広がらないというのが通常の場合に思えます。

ところがライト氏は、「プレイヤーの立場に立ち続ける」という姿勢を一貫して持ち続けることによって、その不可能を可能にしました。

ライト氏はゲームのプログラムを構築する際、「プレイヤーの頭の中に構築された精神構造」に手を加えることを意識していると語ります。

その「精神構造」の改変に大きな役割を担うのが、ゲーム世界の中でプレイヤーが直面する「失敗」。

「こう動くと失敗する、じゃあ次はどうしたらいいんだろう」と考える中で、そのゲーム世界に適した精神構造が自然と構築されていく、ということをライト氏は発見しました。

「失敗が学習を加速させる。だから私がゲームデザインをする際に心がけていることは、『失敗をユーモラスにする』ことだ

プレイヤーの体験を最高のものにするために、ライト氏はサウンドデザインにもこだわりを見せます。

例えば「ザ・シムズ」のサウンドデザインにおいては、プレイヤーが喋る異国風の言語の設計に苦戦しました。

試行錯誤の末、ライト氏たちのチームは、「エストニア語」と「ナバホ語」という二つのエキゾチックな発音を持つ言語の話者を部屋に呼び、お互いにジブリッシュ(意味をなさない言葉)を喋らせて収録したそうです。

その結果生み出された言語は、「シムリッシュ」と言われてファンの間で辞書が作られるほど、愛されることになりました。

ライト氏は、ゲームがプレイヤーの人生に与える影響について、ポジティブな確信を持っています。

「ゲームには、プレイヤーの創造力を引き出すと同時に、新たな価値観や世界観に目を開かせる力がある」

ライト氏はその証拠として、オリジナルの動物をデザインして生態を観察するゲーム「スポア」をリリースして最初の一ヶ月で、プレイヤーが生み出した生物種の数が地球に生息している生物種500万種を超えたという事実を指摘します。

ライト氏にとって、ゲームはプレイヤーの創造力を解き放つプラットフォームなのです。

ライト氏の作るゲームは、そのシミュレーション・ゲームとしての性格ゆえに、教育の現場でも積極的に活用されています。

宮崎県小林市では2018年から、地方創生のためのアイデアを募集するために「シムシティ課」を設置して有志の学生たちにシムシティをプレイさせて様々な仮説を立てて実験させ、成果をプレゼンさせるという取り組みを行っているそうです。

まとめ

さて、以上の三点をまとめましょう。

1、自分の想像力の「パレット」を広げる

2、「視覚化」によって物事の本質を洞察する

3、プレイヤーの立場に立ち続ける

単なるゲームクリエイターにとどまらず、シミュレーションというツールを使って様々な実験を行う科学者としての顔を持つウィル・ライト氏。

現在は、人間の「内面世界」を表現するゲームを構想中です。

ウィル・ライトからの最後の一言

周りを見てご覧。Remember, look around you.

次のアイデアがどこか近くに隠れているかもしれない。Your next idea might be lurking somewhere nearby.

行って捕まえよう。Go out and catch it.

私はここで首を長くして待ってるからね、君の作ったゲームをプレイするために。I’ll be here, anxiously waiting, ready to play.

自己変革への第一歩

人から聞いた面白い話を、ゲームにできないか考えてみる

ライト氏は今後ゲームにできそうな題材の例として、文字のフォントの歴史を扱ったドキュメンタリー映画「ヘルベチカ」と、日本の寿司職人の一生を追った映画を挙げています。

日常で出会うあらゆるものをゲームクリエイターの視点で考えてみましょう。

自分の頭の中の考えを樹形図に表してみる

ゲームというメディアの形式は、プレイヤーの「判断」の連鎖で成り立つ点が特徴です。

同じように、私たちの生活も絶え間ない「判断」の連続で成り立っています。

自分の「判断」を樹形図に表してみましょう。

思いもよらぬ可能性が見えてくるかもしれません。

自分の失敗を、ユーモラスに捉えてみる

ライト氏がいう通り、失敗は学習を加速させます。

私たちは通常、失敗自体を恐れるよりも、失敗によって味わう苦い思いを恐れているのではないでしょうか?

失敗自体をユーモラスに感じられる工夫をしたら、もう何も怖くありません。

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