グルメ 経営

#7「スターバックスCEOハワード・シュルツに学ぶ、魅力的な会社を作る秘密」

ハワード・シュルツってどんな人?

ハワード・シュルツ:スターバックスを創業し、世界的コーヒーショップチェーンへと育て上げた実業家。

言わずと知れた人気カフェ「スターバックス」。

1971年の創業以来、全世界90ヵ国に約3万店舗を出店するグローバルチェーンへと成長してきました。

その育ての親が、今回のマスターとなる実業家ハワード・シュルツ氏です。

シュルツ氏はアメリカの低所得層の出自でありながら、通算二十年にわたるCEO勤務を通して一代で「スターバックス帝国」を築き上げ、自身も総資産額31億ドルを超えるビリオネアとなりました。

顧客からの人気のみならず、従業員満足度の高さでも知られる優良企業スターバックス。

社業の発展と従業員の幸福度アップという、相反する要素を見事に両立させた、その成功の秘密は一体どこにあったのか、

ハワード・シュルツ氏の「成功の鍵」に迫っていきます。

ハワード・シュルツ氏の「成功の鍵」

①「謙虚さ」から出発する

・大帝国「スターバックス」の原点には「幼少時の体験」が

スターバックスのCEOに就任して以来、ハワードの志は一貫しています。

その志とは、「会社の利潤追求と、社会に対する責任を両立させる会社」を作るというビジョン。

ハワードのこの願いは、スターバックスの企業理念(ミッションステートメント)にも明確に表現されています。

「人々の心を豊かで活力あるものとするために-ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」(To inspire and nurture the human spirit – one person, one cup and one neighborhood at a time.)

あくまでも「一人のお客様」という個人を大切にし、「コミュニティ」意識を強調するスターバックスは、従業員のことも「パートナー」と名付けて尊重します。

2014年には、経済的な理由で大学の卒業資格を取りづらい従業員のための学士号取得援助プログラムを開始しました。

従業員への支援を惜しまないスターバックスの原点には、ハワードの幼少期の体験がありました。

ハワードは幼少期をブルックリンの貧しい家庭で過ごしました。

父親は元軍人のトラック運転手でしたが、ある日ケガをしたことをきっかけにクビにされ、職を失ってしまいます。

その日からハワードは、心に誓いました。

「父が見つけようとして叶わなかった、理想の会社を自分が作ってみせる」

「父のような苦しみを社員が決して味わうことのない会社を、自分が作る」

少年ハワードの純粋な思いは数十年の歳月を経て、社員を尊重するスターバックスの社風として結実しました。

・社員としての下積み時代には「〇〇」を学んだ

今となっては大実業家として名を轟かせるハワードも、出発点は平凡なところにありました。

ハワードは大学を卒業後、大企業のゼロックスに入社。

セールスマンとして働く経験を通じて、社会を見る目を養っていきます。

「たった数年間の社会経験であっても、それを通じて教科書や学校では絶対に学べないことを学べる」

ハワードは企業に勤めることによって、「組織の一部として働くとはどういうことか」を学んだと語ります。

特に重要なのは、「会社の意思決定」のプロセスを観察すること。

「企業の重役たちが、難しい局面に際してどのようなプロセスでどんな判断を下したのかを観察できたのは、かけがえのない学びになった」

CEOとなった今では、自分と関係のない部署についても関心を持って観察している若手社員のことを将来の幹部候補と見なしていると語ります。

・スターバックス成功の戦略を一言で表すなら、「〇〇」

現代は起業家にとってはチャンスの時代だ、とハワードは語ります。

テクノロジーの発達による創業コストの大幅な低下が、その理由の一つ。

それに加えてさらに、イノベーションに対してオープンな姿勢を持って接してくれる顧客が、現代社会には溢れています。

ハワードは企業家を目指す若者に、暖かいエールを送ります。

「40歳、50歳、60歳になった時に、『あの時もし起業していたら」という後悔だけはして欲しくない。自分の中に少しでも企業家の血が流れていると思うなら、思い切って飛び込みなさい」

しかし、とハワードは付け足します。

「スタートアップ企業のほとんどが挫折に終わっているというのが現実だ」

その原因としてハワードが指摘するのが、「新しいものをゼロから生み出す」ことの難しさです。

「失敗するスタートアップの多くは『新しいジャンルをゼロから開拓しよう』としがちだ。だが、カスタマーの習慣を根本から作り変えるのはとても難しい」

そこでハワードが勧める戦略こそ、「Disrupt(ディスラプト)」戦略。

「ディスラプト」なんて耳慣れない言葉かもしれませんが、最近シリコンバレーで旬になっているキーワードの一つです。(そういえば、ディズニーのボブ・アイガー氏もこの言葉を使ってました)

『イノベーションのジレンマ』の著者であるクリステンセン教授が「ディスラプティブ・イノベーション(破壊的イノベーション)」という言葉を使って以来、色々な場面で耳にするようになりました。

↑「Disrupt」の意味についてはこちら

それはさておき、ここでハワードの使う「ディスラプト」とは、一言で言えば「既存の業界のニッチを見つけて参入し、産業構造を破壊するようなイノベーションを行う」行為のこと。

この「巨大企業がひしめく成熟した産業の中に、小さなニッチを見つける」ことの大切さを、ハワードは力説します。

事例:オールバーズ

この「ディスラプト」の例としてハワードが挙げるのが、「オールバーズ」というシューブランド。

一見飽和したように見える「靴作り」の産業に参入しながら、「カーボンニュートラルな、自然素材で作られた靴」という独自のブランディングでステータスを確立し、シリコンバレーの大物たちの心を掴みました。

このように、大企業が支配しているように見える産業であっても、その中にニッチを見つけて顧客を引きつけていくことは可能なのだ、とハワードは強調します。

↑靴ブランド「オールバーズ」に興味がある方はこちら

「コーヒーショップ」という成熟産業に参入し、見事グローバル・ブランドを確立したスターバックスも、まさにこの「ディスラプト」戦略で勝利したと言えます。

この「新しい産業をゼロから作るより、既存の産業にイノベーションを行うことによる成果を重視する」精神は、P.F.ドラッカーの古典的名著『イノベーションと企業家精神』で既に語られています。

「さして意味のない製品の改善や価格の変更によって生じた変化を分析することによって、偉大な科学的発見による新しい知識を華々しく応用するよりも大きなイノベーションが行われることがある」

P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』より

この観点からいくと、靴ブランド「オールバーズ」の成功は、「サステナビリティへの関心の高まり」という社会の認識の変化に素早く対応した成果だと言えるでしょう。

②価値観を共有できるチームを作り上げる

・人事の際には「価値観」を共有できる相手かを見極める

採用面接の際、ハワードが好んで用いる質問があると言います。

「最近読んだ本は?」

この質問の意図は、まず相手の関心分野を探り、どんな価値観を持った人間であるかを理解することにあります。(そもそも「読んでません」などといった答えは論外なのかもしれませんが)

多くの場合において、採用面接の際に尋ねる質問には社長の性格が顕著に現れます。(SPANXのサラ・ブレイクリーの場合を思い出してみましょう)

ハワードにとっては、「価値観を共有できるかどうか」という基準が大きなウェートを占めているのです。

「人を雇う際の基準は『専門知識』と『価値観を共有できるかどうか』、この二点だ」

ハワードがそれほど「価値観の共有」を重んずる理由は、それがチームの結束に繋がる点にあります。

「価値観を共有できる4〜5人でチームを作るところからビジネスは始まる」

ハワードがここで言う「価値観を共有した少人数のチーム」とは、成功哲学を体系化したことで有名なナポレオン・ヒルが提唱した「マスターマインド」の概念に近いものなのかもしれません。

(以下、引用)

「マスターマインド」とは、二人以上の、統一した願望や目標を持った人間の集まりのことであり、また、それらの人々の間で行き交う、波長の合った思考のバイブレーションのことです。(…)

「マスターマインド」の協力なしで、偉大な力を発揮し得た人はいません。

過去の成功者の記録を分析してみると、彼らが意識していたか、していないかに関わらず、「マスターマインド」を活用していたことは明らかです。願望をお金やその他、価値あるものに転換するための計画を立て、それを忍耐強く知性的に実行することです。 そして、マスターマインド・グループを正しく選別することができれば、あなたの願望や目標は、気づかないうちに、ほぼ半分は達成されたも同様なのです。

ナポレオン・ヒル『思考は現実化する』より

・スターバックスCEOは「背中で語る」

このように、従業員への価値観の共有を重んじるハワードにとっては、自らが示す日々の勤務態度そのものが従業員教育の一環となっています。

リーダーである自分が誰よりも働くことによって、会社の勤労態度の標準を引き上げ、「何が賞賛されるべきことなのか」の基準、すなわち「エクセレンスの基準」を打ち立てるのだと言います。

私たちにとって、成功は何かに到達することではない。成功は毎日毎日獲得し続けなければならないものだ(Success has to be earned.)

ハワードの分析によれば、従業員は、「管理される」のは嫌うが、自分より大きなビジョンの中に自分の姿を見ることを欲する存在です。

リーダーは従業員と競争するのではなく、共通のゴールに向かって一番努力をしている人間であることを姿で示すことで、鉄の結束力を持つチーム文化を作り上げているのです。

「(従業員を)管理しようとするな。背中で語れ。」

Don’t Manage. Lead.

・従業員を百パーセント信頼する

チーム同士の信頼の根本は、リーダーであるハワード自身がチームメンバー全員を全面的に信頼するところにあります。

その「信頼」が試されたのが、スターバックスが2008年に陥った経営危機の時です。

一時期スターバックスの経営から遠ざかっていたハワードはCEOに再び就任し、全社員を本社に集めて、率直に現状を伝えることにしました。

その際、多くの幹部は「社員を不安にさせるようなデータは共有すべきでない」として、ハワードを止めたと言います。

しかしハワードの決意は固まっていました。

「全ての情報を共有しない状態で、彼らに協力を求める権利は私たちにはない」

ハワードの涙を交えたスピーチに胸を打たれた社員たちは、その日から結束を新たにして再出発を果たし、わずか二年の間にスターバックスは見事復活を遂げました。

③誠実さを重んじ、社会に対する責任を感じる企業文化を作り上げる

・スターバックス元CEOが教える、投資家を口説くコツ

スターバックスの大きな特徴は、会社全体として「社会に対する責任」を常に意識していること。

その意識は、最初の投資家からお金を募る時から既に始まっている、とハワードは語ります。

ハワードが明かす、投資家を口説くコツとは、巧妙な交渉術の類ではなく、相手に「自分はどんな人間なのか」と「なぜ自分がここ(ビジネスの世界)にいるのか」を誠実に伝えるという、シンプルな実践にあります。

投資家にも、「価値観」を共有し、相手にそれをちゃんと理解していただいた上で支援をしていただく-この信頼関係があってこそ、危機の時にあっても盤石な支えを期待できるのです。

ハワードにとっては会社の目的は利潤追求ではありません。

株主への義務を果たし続けること、これこそがハワードにとって会社の存在理由なのです。

だからこそ、起業家へのアドバイスとして、「最初の一年の最初の四半期でちゃんと成果をあげる」ことの大切さをハワードは力説します。

・中国人の心を掴む秘訣は〇〇にあった

社会への責任を果たすためには、ニーズの正確な理解と柔軟な対応力が欠かせません。

その二つが顕著に現れた事例が、スターバックスの中国進出の際のエピソードです。

当初は「アメリカでしっかり経験を積んだベテラン社員を中国に派遣する」という方針で出店を開始したものの、9年間芳しい成果が上がらず、伸び悩んでいたスターバックスでしたが、ベリンダ・ウォンという中国人社員を現地のトップに据えた時から、中国人の感覚に寄り添った「新しいスターバックス」へと舵を切ります。

ある日ジャック・マーのスピーチに呼ばれてアリババの社員集会を訪れたハワードは、そこで形容しがたい違和感を覚えます。

(社員が、全員、年寄りに見える……)

スピーチが終わった後、マーにそのことを尋ねると、マーは笑って

「ああ、それは社員じゃなくて、社員の両親だよ」と答えたのです。

(そうか! 家族を重んじる中国においては、会社も家族ぐるみで付き合うものなんだ!)

早速本社に戻ったハワードは、中国で働く社員の家族全員に対する医療保険制度を打ち出します。

経営幹部の常識的反論を打ち切って断行したプランは、見事中国人の心を掴み、スターバックスは大きな信頼を勝ち得ることに成功しました。

・会議の際に「二つの空席」を設ける

ハワードは経営方針の決定に関わる重要なミーティングの際には、心の中で必ず二つの席を設けると言います。

一つは「パートナーの代表が座る椅子」、もう一つは「カスタマーの代表が座る椅子」。

会議室の中で決定したことでも、彼らの反応がもしも「NO」であったなら、判断を再検討するそうです。

たとえその場にいなくとも、「パートナー」と「カスタマー」の存在を常に意識して判断を下すのです。

こうしたハワードの姿勢を表現するには「誠実さ」という言葉がぴったりに思えます。

裏表なく、誠実に、従業員に隠し事をすることなくリーダー業務を行ったハワードの姿は、CEOを引退した今もなお、透明性の高いリーダーの模範として全アメリカ人の尊敬を集めています。

まとめ

さて、以上の三点をまとめましょう。

1、「謙虚さ」から出発する

2、価値観を共有できるチームを作り上げる

3、誠実さを重んじ、社会に対する責任を感じる企業文化を作り上げる

ハワード・シュルツからの最後の言葉

人生は直線ではない。

挑戦も困難もあるだろう。

しかし、直面する挑戦や困難の多くは、すでに君が解けると知っているものだ。

それは教科書に載っていることではない。

この瞬間に備えて準備を整えてきた君の今までの人生の経験に基づくものなのだ」

自己変革への第一歩

1、自分が所属する組織の「意思決定」のプロセスを観察する。

2、自分のチームが「価値観」を共有できているかを確認する。

3、「お世話になった人たちにお返しをする」という観点から、自分の仕事を振り返ってみる。

+2

おすすめ

コメントを残す